柏原さんの日常

おるたなてぃぶな生活を

詩⑦

 ノストラダムスは言った

 1999年で世界は終わると

 だけど世界は何も変わらず

 僕は産声を上げた

 それから、世界は惰性のような平和を貪り

 僕らは、何も知らずに生活を続けた

 それから、20年経つと世界は少し変わっていった

 市街地を行き交う人は減り

 遠い国で銃声が轟いた

 僕らは憂鬱だった

 常に、毎日に、生活に

 

 1999年で世界が終わればよかった

 今日もどこかでペンギンたちが

 自由落下に夢を委ねる

 

 1999年で世界が終わればよかった

 薬の量ばかり増えていく

 中に一体何が入ってんだろう

 

 1999年で世界が終わればよかった

 神や仏や預言者に縋って、虚ろな夢だけ見ていたい

 でもそんなやる気もない、勇気もない

 

 1999年で世界が終わればよかった

 遠い戦場の子供たちは何を願うのだろう

 願うほど生活に余裕なんてないのかもしれない

 

 ああ、あの子は今どうしているだろう

 それなりに上手くやっていますか?

 生活は順調ですか?

 それなりに幸せですか?

 大人になって変わりましたか?

 

 ああ、昔の僕はどんな気持ちだっただろう

 それなりに上手くやってたでしょうか?

 生活は順調だったでしょうか?

 それなりに幸せだったでしょうか?

 大人になるなんて想像していましたか?

 

 2020年でも世界が終わることはなかった

 僕はペンギンのまま地べたを這いずり回る

 

 2020年でも世界が終わることはなかった

 薬だけが僕を救ってくれる

 

 2020年でも世界が終わることはなかった

 けれど悲しみが街にあふれている

 

 2020年でも世界が終わることはなかった

 ただ知らない場所で会ったことの無い人へ銃弾が放たれる

 

ああ、僕には僕の悲しみがあって

君には君の痛みがある

僕らはそれを共有できない

だって僕らはどれだけ近づいても孤独だから

けれど手を差し伸ばすことはできる

けれど手を差し出してくれる人がいる

それだけで充分じゃないか

それだけが救いじゃないか

 

1999年で世界が終わることはなかった

そして僕らは産声を上げた

 

 2020年でも世界が終わることはなかった

 悲しみ、痛み、苦しみ、戸惑い、悪意

 そんな憂鬱がはびこる今日にも

 おなじくらい優しさがある

 それだけで充分じゃないか

 それだけの現実でいいじゃないか